序章





    この想いが偽物だったとしても…。






「眠れる森」




シャボン玉 とんだ。

屋根まで とんだ。

屋根まで とんで…… 


壊れて 消えた。






    その日は、とても激しい雨が降っていた。
    風は吹き、前が見えなくなる程雨が降りすさんでいた。
    雨と風の音だけが響き
    視界は灰色で、夕方ともなるとその色は黒みを帯びる。
    アスファルトを叩く雨音がとても痛々しく感じて、気持ちが憂鬱になる。

    彼女は溜息を一つ吐くと傘を差し、いつもの道を歩き始めた。
    それはいつもと変わらぬ日常。
    いつもと同じように大学に来て、一日が終わり、彼の家に行く。
    ただ今日は珍しく雨が降っていただけだ。
    だがその雨が彼女の運命を変えてしまった。

    前も見えない位の雨
    遠くをほんの小さく、小さく、照らす車のライト。
    その光は淡く少しずつ彼女に近づいてきた。
    その光が彼女を包み、大きくぼやけた。
    雨の中に傘が舞い、アスファルトを叩きつける雨音とは異なる不快な音。
    エンジンが激しい音をかきたてる。

    何事も無かったように時間が過ぎ去った。

    そこには一人の女性が天を仰ぎながら、赤い色彩に抱かれていた。







―― 「眠れる森」 序章/完 ――








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